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産業用イーサネット「10BASE-T1L」とは? RS-485との比較で解説

本コラムの目的

産業用イーサネットの10BASE-T1Lという規格をご存じでしょうか。
これはIEEE® 802.3cgで2019年に承認された規格であり、以下の4点が主な特徴です。

10BASE-T1Lの4つの特徴

01 データ線に電力重畳が可能
02 10Mbpsの通信レート
03 ツイストペアケーブルを使用可能
04 1000mという伝送距離でPoint-to-Point通信可能

10BASE-T1Lは様々な既存通信方式からの置き換え候補として注目されています。
今回のコラムでは、特にRS-485の特徴と比較しながら10BASE-T1Lの特徴を掘り下げ、置き換えによるメリットを紹介します。

 

図1. T1Lの主な特長

RS-485との比較について

比較する背景

今回T1Lとの比較対象としてRS-485を選んだのは、RS-485がノイズ耐性と長距離伝送に優れた通信インターフェース規格として広く普及しているからです。
これらの特徴はT1Lも得意とする点であり、T1Lの利点がより明確になります。

それではなぜ、そのRS-485からの置き換えを促すようなコラムを書くかというと、
近年の工場をはじめとする産業シーンで扱われる情報量や、センサ等のエッジデバイスの数が増えているという背景があります。

さらに、産業オートメーションにて業務効率化や情報共有の必要性から、
エッジデバイス等のOT(Operational Technology)とIoTやクラウド等のIT(Information Technology)との連携が進んでいます。

RS-485の課題

RS-485をOT側で採用していた場合、長距離伝送では通信レートが数十kbps~数Mbpsに低下してしまう上に、
プロトコル変換ゲートウェイが必要になる場合があり、システム構成や保守の複雑化、ならびにコスト増加につながる可能性があります。

10BASE-T1Lの導入で期待できること✨

最大1000m程度まで10Mbpsの通信レートを維持しつつ、IT/OTをイーサネットで統一することで、一貫したIPベースのネットワークを構築できます。
これにより共通のネットワーク管理や統合監視が可能となり、セキュリティやトラブル対応等の運用の効率化、可視性向上が期待できます。

図2. なぜ今T1Lが求められているのか

表1にRS-485とT1Lの特徴をまとめ、以下で各項目について詳しく説明します。
なお、ここでRS-485は2線式を前提としています。


表1. RS-485とT1Lの比較

ケーブル

T1Lでは特定の標準ケーブルは規定されておらず、単一のツイストケーブルペアを用いて通信を行うことができます。
そのため、仮にRS-485から置き換えを行う場合でも、(もちろんケーブル品質や伝送条件の確認は必要ですが)既設配線を活用できる場合があり、
配線工事コストの削減が期待できます。

また、Analog Devices社製品であるADIN1100等のT1L PHYではタイムドメイン反射率エンジン(TDRエンジン)を搭載しており、
ケーブルにて断線や短絡が発生した場合に高精度な位置推定を行うことができます。

これらの機能によって、障害箇所の特定が容易になることで復旧までの時間や工事自体のコストの削減が期待できます。

図3. TDRエンジンによる断線/短絡位置までの距離推定

通信レート/伝送距離

RS-485はノイズ耐性の高い長距離伝送を可能にしていますが、伝送距離 L [m]とデータレート R [bps]の間にはおおよそL × R ∼ 108という経験則が知られています。
そのため、例えば伝送距離が1000mの時には通信レートが100kbpsオーダーまで低下してしまいます。

RS-485の最大伝送距離は約1200mですが、この距離で高速通信を実現することは困難です。
これに対し、T1Lでは約1000m程度の伝送距離においても10Mbps通信レートを実現できます。

このため、RS-485では通信速度を犠牲にしなければ実現できなかった長距離通信を、高速性を維持したまま行えることが大きな特徴です。

図4. RS485とT1Lにおける伝送距離 vs 通信レート

ただし、T1Lにおいても伝送可能距離は使用するケーブルの特性や配線条件に依存します。
また、省電力化や防爆用途への対応のため、信号振幅として1Vp-pと2.4Vp-pの2種類を選択できますが、
1Vp-p設定では伝送損失の影響を受けやすくなるため、到達可能距離は短くなります。

※T1Lの伝送距離に影響する要因やケーブル選定との関係については、「リファレンス」内②のAnalog Devices社のコラムで詳しく取り上げられています。

通信方式/通信監視

RS-485では差動信号による通信を行います。
T1Lではただの差動信号ではなくPAM3変調を用いた4B3T符号化(3シンボルの3値信号で4bitデータを送信)を採用しており、
ディスパリティ制御によるDC平衡を行いながら限られた帯域を有効活用して10Mbps通信を実現しています。

図5. PAM3変調による4B3T符号化

また、RS-485では単一のツイストケーブルペアでは半二重通信となり、複数ノード間で送受信タイミングを調整する必要があります。
一方、T1Lはハイブリッド回路とエコーキャンセル機能により、単一のツイストペアケーブルで全二重通信が可能であり、
送受信を同時に行えることから、やはり通信効率を高めることができます。(図6(a))。

Analog Devices社製品のADIN1101やADIN1101、ADIN2111ではハイブリッド回路がIC内に内蔵されているため、
周辺部品点数を削減し、設計を容易にすることがができます。(図6(b))

図6. (a) ADIN1100の外付けハイブリッド回路(赤枠内)
(b) ADIN1101ではハイブリッド回路が内蔵されているため、外付け不要である

さらに、Analog Devices社製品であるADIN1100等のT1L PHYではノード間のリンク品質を監視する機能が搭載されています。
これはPHY層で受信した実際の信号電圧と期待値電圧からMSE(Mean Square Error)を計測し、
それを元にSNR(Signal-to-Noise Ratio)を計算、SNRを元にBER(Bit Error Rate)を見積もります(図7)。

図7. T1LにおけるSNRとBERの統計的関係

IBEE 802.3cgの規格ではBER≤10^(-9)を要求しており、システムの堅牢性を確保するために十分なマージンを持ったリンク品質の確保が望まれます。
これらは、「リファレンス」内③のAnalog Devices社のコラムで詳しく取り上げられています。

複数ノードの接続

複数ノードの接続についてはRS-485とT1Lの間では明確な違いがあります。
RS-485は図8のようにマルチドロップ方式を採用しています。

1つのバスに接続できる最大ノード数はレシーバの入力インピーダンスによって決まります。
標準的なレシーバでは最大32ノード、Analog Devices社製品のADM306xEシリーズ等では最大128ノードまで接続可能であり、
レシーバの仕様によって接続可能なノード数は変化します。

伝送距離が100m程度の距離では、通信レートが数Mbpsでることもあり、
短距離で複数ノードを接続する場合にはRS-485がより優れていることもあります。

図8. RS-485のマルチドロップ接続例

一方、T1LはPoint-to-Point通信の規格であることより、複数ノードを接続する場合は、
図9のようにAnalog Devices社製品のADIN2111を使用したデイジーチェーン接続を行うことが必要となります。

この構成ではRS-485とは異なるアーキテクチャでノードを増設することが可能です。
こちらの接続方法では10Mbpsの通信レートを維持しつつ、ノード間の距離を1000m程度までとることができるので、
長距離で複数ノードを接続する場合には優位性を得られます。

図9. T1Lのデイジーチェーン接続例

電源供給

T1Lでは図10のように、データ伝送用のケーブルを利用して電力も伝送することが可能です。
これにより従来の電源線を削減することができ、RS-485での実装時と比較し配線効率と設置自由度を向上させることができます。

図10. SPoEを採用したシステム

PSE(Power Sourcing Equipment)が給電し、PD(Power Device)が受電する


T1LではSPoE (Single-pair Power over Ethernet)という規格を採用したことにより、
ケーブル長や種類にもよりますが最大52Wの電力重畳を行うことができます(図11)。

また、SPoEはIEEE 802.3cgによって標準化された技術であるため、SPoEに対応した機器同士であれば、
異なるメーカー製であっても相互接続性が期待できます。

図11. SPoEにて18AWGケーブル使用時のケーブル長と最大伝送電力の関係

まとめと今後の展望

ここまでRS-485と比較する形でT1Lの特徴を記載し、現行の長距離伝送システムでT1Lに置き換えることのメリットを紹介してきました。
また、T1Lはイーサネット物理層として利用できるため、PROFINETやEtherNet/IPなどの産業用イーサネットプロトコルとの親和性が高いと言えます。

今後の展望として、T1Lはイーサネット物理層ということもあり将来の産業用イーサネット技術との互換性も期待されています。

現在はRS-485の方が広く普及しているため他社製品同士の相互互換性が高いと言えますが、
T1L規格が幅広い通信プロトコルへ対応し、エッジデバイスへの搭載が進むことで長期運用やシステム拡張のメリットを享受しやすい環境が構築されていくでしょう。

リファレンス

① 10BASE-T1Lで、フィールド・デバイスのイーサネット接続をシームレスに実現 | アナログ・デバイセズ

② 10BASE-T1L対応のシングル・ペア・イーサネットにおいて、ケーブルの伝送距離は何で決まるのか? | アナログ・デバイセズ

③ AN-2553: ADIN1100/ADIN1110/ADIN2111 Link and Cable Diagnostics | アナログ・デバイセズ

④ SPoEを活用し、遠隔地に電力を伝送する | アナログ・デバイセズ

⑤ ADIN1100 データシートおよび製品情報 | アナログ・デバイセズ

※本記事に掲載している図表の一部は、Analog Devices, Inc.の許諾を得て転載しています

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