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その高解像度ADコンバータ 有効に活用できていますか?

電源ノイズがADコンバータに及ぼす影響についての考察

近年は24ビットADコンバータや高分解能ADコンバータを内蔵したマイコンを容易に入手できるようになりました。
しかし、24ビットADコンバータを採用しただけで24ビット相当の測定性能が得られるわけではありません。

実際には、入力信号や電源、基準電圧などに含まれるノイズによって、本来利用できるはずの下位ビットが埋もれてしまうケースが少なくありません。
特に24ビットクラスのADコンバータでは、従来の12ビットや16ビットでは問題にならなかったノイズが無視できない誤差要因となります。

本稿では、高分解能ADコンバータにおける電源ノイズの影響について考察します。

1.24ビットADコンバータはどれほど高分解能なのか

まず、ADコンバータの分解能を確認してみましょう。表1に各ビット数における分解能と1LSBの重みをまとめました。
24ビットADコンバータを5Vフルスケールで使用した場合、1LSBはわずか0.298μVです。

これは一般的な電子回路設計で十分に活用するには高度なノイズ対策が必要なレベルです。

なお、ここで示している値は理想的な量子化分解能であり、実際のADコンバータの有効分解能(ENOB)とは異なる点に注意が必要です。
24ビットADコンバータであっても実際の有効分解能は理想値より大幅に低くなることが一般的で、本表は理想的な量子化分解能を示したものです。

表1 ADコンバータのビットの重みと分解能
ビット 分解能 1LSBの重み 1LSBの重み
1Vフルスケール
1LSBの重み
5Vフルスケール
理論的量子化
S/N比※1
12 bit 4,096 0.0002441406 244.1μV 1.221mV 74.01dB
16 bit 65,536 0.0000152588 15.26μV 76.29μV 98.09dB
20 bit 1,048,576 0.0000009537 0.9537μV 4.768μV 122.17dB
24 bit 16,777,216 0.0000000596 0.0596μV 0.2980μV 146.24dB


この表でいうフルスケールとは、ADコンバータが変換対象として扱う入力レンジ(Full-Scale Range)のことです。

例えば入力範囲が0V~5Vであればフルスケールレンジは5Vとなります。
また、内部PGAを備えたADCでは、外部入力端子の電圧範囲ではなく、ADC内部で実際に変換される信号レンジがフルスケールとなります。

計算式は、フルスケール電圧1V、16ビットADコンバータの場合、

1 LSB = 1V 216 = 15.26μV

となります。

2.なぜ高分解能ADコンバータではノイズが無視できなくなるのか

5Vフルスケールの例で考えると、仮に1mVのノイズがあった場合、12ビットADコンバータでは約0.8LSBに相当し、
その影響は比較的小さいが、24ビットADコンバータでは1LSBよりはるかに大きな値となってしまいます。

なお、ここでフルスケールを“ADコンバータのアナログ入力信号の最大振幅値”と言っていますが、
これはADコンバータICの入力ピンの最大振幅値ということではありません。
内部にアンプを持っている場合はアンプの出力側、つまりサンプリングされる部分での最大振幅値のことです。

図1に示すように、1mVのノイズがあった場合、上位12ビットはノイズの影響は比較的小さいですが、
13ビット目以降の分解能は十分に活用することが難しくなります。

図1 フルスケール5V、ノイズレベル1mVの場合のイメージ


図2 フルスケール5Vの場合、16ビット、24ビットの分解能を実現するためのノイズレベル

つまり、高分解能ADコンバータを採用しても、システム全体のノイズレベルが十分低くなければ、下位ビットを有効に活用することができません。

3.ADコンバータの性能を制限するノイズ要因

ADコンバータで考慮すべきノイズは、大きく以下の4つがあります。

01 入力信号そのもののノイズ
02 基準電圧源のノイズ
03 ADコンバータ自体のノイズ
04 電源ノイズ 本コラムで解説

実際のシステムでは、これらすべてを考慮する必要があります。
さらに24ビットADコンバータであっても、実効分解能は20ビット前後である場合が多く、データシートのENOBやノイズフリービット数を確認することが重要です。

本稿ではこの中でも見落とされやすい「電源ノイズ」に焦点を当てて説明します。

4.電源ノイズはどの程度ADコンバータ出力に影響するのか

電源ノイズの影響についてはPSRR(Power Supply Rejection Ratio:電源電圧変動除去比)で表されます。
PSRRとは「電源電圧の変動がどの程度ADコンバータの出力に現れるか」を示す指標です。 PSRRは以下の様に定義されています。

PSRR [dB] = 20 Log ΔVsupply ΔVoutput

ここでΔVsupplyは電源ノイズ振幅、ΔVoutputはADコンバータ出力に現れる等価ノイズです。

例えば、PSRRが80dBの場合、電源の変動が1/10000になって出力に現れます。
仮に10mVの電源電圧の変動(リップルなど)があった場合、理論上は1μV相当の入力換算誤差として現れます。

ただし実際のPSRRは周波数依存性を持つため、ノイズ周波数によって影響量は変化します。先の80dBは特定の周波数での代表値です。

5.16ビットADコンバータでは問題なくても24ビットADコンバータでは無視できない

5Vフルスケールの16ビット ADコンバータの場合、1LSBは76.29μVとなり、電源ノイズによって発生する1μVの誤差は、

1μV 76.29μV = 0.013LSB

に相当します。この条件での電源ノイズによる誤差は1LSB以下となります。
一方、5Vフルスケールの24ビットADコンバータの場合、1LSBは0.298μVとなり、電源ノイズによって発生する1μVの誤差は、

1μV 0.298μV = 3.36LSB

に相当します。そのため高分解能ADコンバータでは電源ノイズが無視できない誤差要因となりやすいです。

6.実際のADコンバータではどうか

では例としてPSRRが 88dB、フルスケールが2.5V の場合に電源ノイズがどう影響するのか見てみましょう。
PSRR:88dBは約1/25000となります。電源のノイズが10mVだとすると0.4μVとなります。フルスケールが2.5Vの場合1LSBは、

1 LSB = 2.5V 224 = 0.149μV

となります。0.4μVの電源起因ノイズは、

0.4μV 0.149μV = 2.68LSB

となります。
この値はADコンバータ内部ノイズなどを考慮していない単純計算ですが、24ビット級ADコンバータでは電源ノイズが無視できないことが分かります。

PSRRはADコンバータによって異なりますのでデータシート等でご確認ください。
ちなみに20ビットADコンバータAD4080はデータシートにPSRRのグラフも記載されています(図3)。

図3 AD4080 電源リップル除去比(データシートより)

この製品は複数の電源ピンがありますが、電源ピンによって影響具合が違っています。

7.電源ノイズを抑えるには

では、電源ノイズを抑えるにはどうすれば良いでしょうか。一般的には、

POINT 01
LCフィルタを適切に配置する
POINT 02
低ノイズ・高PSRRのLDOを使用する
POINT 03
低ノイズなスイッチング電源を使用する

といった対策を組み合わせます。

スイッチング電源のノイズを低減するためにLDOの使用が一般的です。ただ、このLDO自体も入力の電源ノイズの影響を受けるため、PSRRが仕様化されています。
一般的に周波数が高くなると除去効果が低くなります。

取り扱う信号の周波数が高い場合は、LCフィルタを効果的に使用すると共に、高PSRRかつ高い周波数でも高PSRRを維持できる製品を選択する事がポイントです。

アナログ・デバイセズ社から、超低ノイズ、高PSRRのLDO LT304xシリーズが製品化されています。
10kHz以下で90dB以上、1MHzでも70dB以上のPSRR性能を誇ります。図4はLT3045 20V 500mA LDOのPSRR特性です。

図4 LT3045 電源リップル除去比(データシートより)

LDOは低ノイズですが、一方で効率や発熱の課題があります。そこで低ノイズなスイッチング電源も有力な選択肢となります。

スイッチング電源の電源ノイズに関しては、スイッチングノイズ(数百kHz~数MHz)だけでなく、100kHz以下の比較的低い周波数のノイズも重要となります。
この帯域(特に10kHz以下の低い帯域)は実用的なLCフィルタのみで十分な除去量を確保することが難しい場合があります。

アナログ・デバイセズ社から、100kHz以下の低域ノイズを大幅に低減可能なSilent Switcher 3技術を搭載した製品がリリースされています。
例えばLT83203/LT83205の場合10Hz~100kHzのノイズレベルは4μVrmsと低ノイズLDO並みとなっています。

Silent Switcher 3製品とLCフィルタを組み合わせることにより、LDOを削減でき、小型、低BoM、電源の効率向上
が図れます。

図5 LT83205のノイズスペクトラム密度(データシートより)

8.デジタルフィルタも有効な手段

デルタ・シグマ方式のADコンバータではデシメーションによりノイズを低減させることが可能です。
また、一部の逐次比較(SAR)方式のADコンバータでも平均化処理を行える製品があります。

これらの製品、機能を有効活用することでノイズを低減させることは可能ですが、 以下のトレードオフが発生します。

データレートの低下
応答速度の低下
帯域幅の低下

したがって、デジタル処理に頼る前に 電源ノイズそのものを低減する設計 が重要です。

まとめ

24ビットADコンバータを採用しても、周辺回路のノイズが十分に抑えられていなければ、その性能を活かすことはできません。
特に電源ノイズは見落とされがちですが、LSB換算では無視できない誤差となる場合があります。

高分解能ADコンバータの性能を最大限に活かすためには、
「高性能なADコンバータを選択すること」だけでなく、「それに見合った電源・基準電圧・実装設計を行うこと」が重要です。

※今回の説明では、話を簡単にするためにノイズのレベルの単位について、単にmVやμVといった表現をしました。
 実際のICでは、ノイズの仕様はμVrmsやnV/√Hzといった単位で表されています。

※1 理論的量子化S/N比とは、フルスケールのサイン波が入力されると仮定した場合の

SNR = 20log 入力信号のrms値 量子化ノイズのrms値

です。一般的に

SNR = 6.02N + 1.76dB

で表されます。

※コラム内で紹介した製品のホームページのリンクは以下のとおりです。ぜひ一度ご覧ください。

20ビット 40MSPS SAR型ADC AD4080

20V 500mA 超低ノイズ 超高PSRRリニアレギュレータ LT3045

18V 3A Silent Switcher3 降圧DCDCコンバータ LT83203

18V 5A Silent Switcher3 降圧DCDCコンバータ LT83205



※平均化の機能を内蔵したSAR(逐次比較)型ADコンバータの例です。

16ビット 1MSPS 4ch デュアル同時サンプリングADC AD4684

16ビット 2MSPS Easy Drive機能内蔵ADC AD4052

16ビット 1MSPS 16ch マルチプレクスADC AD4696


先に紹介したAD4080とそのシリーズも平均化の機能を内蔵しています。

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