【技術コラム】デジタルアイソレータの仕様を考えてみよう
【目次】
■ なぜ絶縁が必要?
■ フォトカプラとデジタルアイソレータの比較
■ デジタルアイソレータの絶縁方式
■ デジタルアイソレータの通信方式
■ デジタルアイソレータの仕様を考えてみよう
- CMTI(コモンモード過渡電圧)
- 絶縁の安全規格
- 安全規格の区分け(基礎規格、部品規格、製品規格)
- 絶縁等級
- 沿面距離、空間距離
- UL1577、IEC60747-17
- 基礎絶縁/強化絶縁の絶縁性能の比較
■ まとめ
なぜ絶縁が必要?(その1)
安全規格(※)では操作する人の感電や、機器の破損などの危険を防ぐことを義務付けています。高電圧を扱うFA機器、人体に接触する医療機器では特にこのような危険が増えます。危険から人体や機器を守るために高電圧側と低電圧側を絶縁しつつ、必要な信号だけを通す必要があります。
出典
https://insights.tuv.com/jpblog/iec-62368-1%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81
なぜ絶縁が必要?(その2)
RS485など特に長距離のデータ伝送では、GNDループがハムなどのノイズを拾ってデータラインへ電磁誘導したりグランドの電位差の発生により通信エラーを起こす可能性があります。
絶縁することで、このGNDループを切り、電位差をなくして必要な信号だけを通す必要があります。
出典
https://www.analog.com/jp/resources/technical-articles/breaking-ground-loops-with-functional-isolation.html
https://www.analog.com/jp/resources/media-center/videos/6214815006001.html
フォトカプラとデジタルアイソレータの比較
絶縁デバイスとしてのフォトカプラは長年の実績があり、入出力電圧も24V可能なのでFA用途に最適ですが、低速であり消費電流が大きくなります。
高速、低消費電流、基板小型化を実現したい場合、デジタルアイソレータが有効です。
出典
https://www.analog.com/jp/lp/003/over_icoupler_digital_isolation.html
https://www.analog.com/jp/resources/media-center/videos/912821262001.html
https://jp.everlight.com/wp-content/plugins/ItemRelationship/product_files/pdf/ELM45X.pdf
12chを構成するために、4ch入りフォトカプラ 3個、6ch入りデジタルアイソレータ:ADuM36x 2個で構成した場合の基板面積の比較になります。デジタルアイソレータは12chで比較するとパッケージの比較だけで1/3以下の面積になります。
デジタルアイソレータの外付け部品はIC 1個当たりデカップリングコンデンサ2個だけですが、フォトカプラは各chにLED電流制限抵抗、出力プルアップ抵抗が必要になり、部品点数が増えることで、実装面積比はさらに大きくなります。
出典
Everlight社 ELQ3H7データシート
デジタルアイソレータの絶縁方式
デジタルデジタルアイソレータには磁気結合方式と容量結合方式があります。アナログデバイセズ社は両方式を有しています。チャンネル数は1ch~6chまで取り揃えています。
磁気結合方式は絶縁膜(ポリイミド)を挟んだトランスを内蔵し、磁界の時間的変化としてデータ伝送します。
容量結合方式は絶縁膜(SiO2)を挟んだコンデンサを内蔵し、電界の時間的変化としてデータ伝送します。
例としてデータレート100Mbps以上の製品で6chのADuM36xとMAX2266xをご紹介します。
出典
AdUM36xデータシート、MAX2266xデータシート
https://www.analog.com/jp/resources/technical-articles/inside-icoupler-technology-measuring-cmti.html?utm_source=copilot.com
デジタルアイソレータの通信方式
DCからフルスピードまでデータ伝送できるように、内部でエンコード、デコード回路を内蔵することで絶縁バリアを跨いでデータ伝送しています。
エンコード、デコードはオンオフ・キーイング(OOK)方式とパルスエンコード方式があります。
OOK方式は搬送波を使いますがノイズ耐性に優れ、パルスエンコード方式はパルスエッジ部だけ電流が流れるので低消費電流が実現できるという特長があります。
デジタルアイソレータの仕様を考えてみよう
アナログ・デバイセズ社の最新の6chデジタルアイソレータ、ADuM36xNを例に絶縁IC製品特有の仕様についてご説明していきます。
出典
https://www.analog.com/media/en/technical-documentation/data-sheets/adum360n-361n-362n-363n.pdf
CMTI
Common Mode Transient Immunity(コモンモード過渡耐圧)の略。絶縁された2つのグランド間で発生する電位差の大きな時間変化(kV/us)に対し、データを破損させず耐えられる能力です。
ADuM362では180kV/us(TYP)になっています。
出典
https://www.analog.com/media/en/technical-documentation/data-sheets/adum360n-361n-362n-363n.pdf
CMTIが20kV/usの他社製品と100kV/usの製品(ADuM1402の例)に100kV/usの変位が加わった場合で比較します。
過渡電圧VCMの100kV/usの立下り変化に対してCMTI=20kV/usの製品の場合、データ(緑色、紫色)に落ち込みが見られますが、ADuM1402の場合はほとんど影響が見られません。
絶縁の安全規格
アナログ・デバイセズ社の最新のデジタルアイソレータ、ADuM36xNを例に絶縁の安全規格についてご説明していきます。ADuM36x のRev.E データシートでどう書かれているかを、まず先に示します。
アナログ・デバイセズ社の最新のデジタルアイソレータ、ADuM36xNを例に絶縁の安全規格についてご説明していきます。ADuM36x のRev.E データシートでどう書かれているかを、まず先に示します。
絶縁の安全規格とは
絶縁の安全規格には、基礎規格、部品規格、装置規格があります。
・基礎規格 のIEC60664-1では絶縁等級や絶縁距離等の基礎的な定義をしています。
・部品規格 は個々の部品(デジタルアイソレータ)が安全に機能することを保証するため、定格、試験方法を規定しています。UL1577およびIEC60747-17の2つの認証を受ける必要があります。
・装置規格 は装置の危険度(過電圧カテゴリ等)に応じた絶縁等級、絶縁距離への要求を規定しています。デジタルアイソレータで装置規格の認証も取っておくことで顧客の製品の認証を容易にしています。
出典
https://www.analog.com/en/resources/technical-articles/digital-isolators-set-the-standard-for-reinforced-insulation.html
https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=IEC+60664-1+Ed.+3.1%3A2025
絶縁等級
基礎規格 IEC60664-1では 絶縁の等級として機能絶縁、基礎絶縁、強化絶縁の3つを定義しています。
機能絶縁は部品が正しく機能するための絶縁です。感電からの保護を考慮していません。FR4基板の配線間やデジタルアイソレータのチャンネル間の絶縁などが該当します。
基礎絶縁はユーザーを感電から保護できる絶縁です。安全規格で決められた絶縁性能を有する必要があります。この保護が失われた場合、感電のリスクがあります。
強化絶縁は基礎絶縁が破壊しても感電に対する保護をできるもので、単一の絶縁で絶縁が二重に構成されたものです。基礎絶縁よりも厳しい絶縁性能の要求があります。
出典
https://www.analog.com/media/jp/technical-documentation/technical-articles/MS-2242_jp.pdf
https://www.analog.com/jp/resources/faqs/FAQ__difference_between_basic_double_insulation.html
https://www.analog.com/jp/resources/technical-articles/isolated-data-transmission-and-power-conversion-integrated-into-a-surface-mount-package.html
沿面距離と空間距離
基礎規格IEC60664-1では沿面距離、空間距離を定義しています。
沿面距離(Creepage)は最大動作電圧で導電路形成(トラッキング)を起こさない距離を規定します。汚染度※や比較トラッキング係数※、材質グループ※に関係します。(※詳しくは出典をご覧ください)
空間距離(Clearance)は過電圧でコロナ放電を起こさない距離を規定します。標高に関係し、海抜2000m以下を規定しています。海抜が高いと補正係数を乗じる必要があります。
UL1577
部品規格のUL 1577 は米国の規格で、デジタルアイソレータおよびフォトカプラも対象としています。認証試験では、1次側と2次側の間に50Hzまたは60Hzの高電圧を1分間印加して、入出力間の絶縁耐圧試験で問題ないことを試験しています。
ADuM36xはパッケージごとにVISO(絶縁耐圧)として全数試験で規定しています。
VISOはSOIC16-Wでは5.7kVrms、QSOPでは3.0kVrmsとなっています。
IEC60747-17
部品規格のIEC 60747-17 は国際規格で、デジタルアイソレータ専用です。(フォトカプラは適用されない)
TDDB試験、絶縁耐圧試験、部分放電試験で絶縁性能を規定しています。
IEC60747:TDDB試験
TDDB試験(Time Dependent Dielectric Breakdown;時間依存破壊試験)は実使用電圧よりも過大な電圧を長期間印加して絶縁破壊するまでの期間を測定します。この結果により実使用電圧での寿命(数10年レベル)を数学的に予測し規定したものであり、そこがUL1577との大きな違いです。
SOIC16_Wのパッケージでは連続最大絶縁電圧VIORM=1173Vpeak、QSOPではVIORM=636Vpeakとして規定しています。
IEC60747-17:TBBD試験
TDDB試験による寿命予測のイメージを下記に示します。
使用電圧より過大な電圧を長期間印加して絶縁破壊した電圧の結果から外挿して数10年レベルでの 寿命を数学的に求め、連続最大絶縁電圧VIORM、VIOWMを導出しています。
出典
https://www.analog.com/media/jp/technical-documentation/technical-articles/Inside_iCoupler_Technology_High_Voltage_Endurance.pdf
https://www.analog.com/jp/resources/technical-articles/safety-reliability-of-digital-isolators.html
https://www.eeworldonline.com/what-are-the-performance-standards-for-solid-state-isolators/
IEC60747-17:絶縁耐圧試験
VIOTMは1秒間 ステップ状の過電圧を印加して部分放電しない(qPD(pC)以下)事を全数確認しています。
最大サージ絶縁電圧 VIOSM(油中)、VIMP(気中)はインパルスサージを印加して絶縁破壊しない事を規定しています。ADuM36x の SOIC16-WパッケージはVIOSM=16kVです。
出典
https://www.analog.com/en/resources/technical-articles/digital-isolators-set-the-standard-for-reinforced-insulation.html
ttps://toshiba.semicon-storage.com/info/DCL540L01_application_note_ja_20241211_AKX01362.pdf?did=161101&prodName=DCL540L01
基礎絶縁/強化絶縁の絶縁性能比較
基礎絶縁/強化絶縁で要求される絶縁性能の比較を下に示します。
すべてのパラメータについて強化絶縁は基礎絶縁より厳しい仕様を満足する必要があります。
出典
https://www.analog.com/media/jp/technical-documentation/technical-articles/MS-2242_jp.pdf
https://www.analog.com/jp/resources/technical-articles/selecting-the-right-sense-resistor-for-motor-control-with-reinforced-isolation.html
まとめ
■なぜ絶縁が必要?
→感電防止、データ伝送エラーの回避のためです。ただし基礎絶縁で十分か、強化絶縁が必要かどうかはお客様の装置が適用される装置規格により決まり、危険度(過電圧カテゴリ等)で変わります。
■フォトカプラとデジタルアイソレータの比較
→24Vを扱う用途ならフォトカプラ、高速/低消費電流/小型化が必要ならば デジタルアイソレータをお勧め致します。
■デジタルアイソレータの絶縁方式
→磁気結合方式、容量結合方式があります。アナログデバイセズは両方とも製品がございます。
■デジタルアイソレータの通信方式
→OOK、パルスエンコードの2つの方式があります。
■デジタルアイソレータの仕様を考えてみよう
- CMTI(コモンモード過渡電圧)
- 絶縁の安全規格
- 安全規格の区分け(基礎規格、部品規格、製品規格)
- 絶縁等級
- 沿面距離、空間距離
- UL1577、IEC60747-17
- 基礎絶縁/強化絶縁の絶縁性能の比較
→それぞれ概要をお伝えしました。
デジタルアイソレータ以外の製品全般
今回は、デジタルアイソレータの主な仕様について説明いたしました。
アナログデバイセズ社の絶縁製品だけでなくインターフェース製品全般について当社HPにリンクがありますので、そちらもご参考になれば幸いです。
https://www.daitron.co.jp/products/adi_interface_isolation.html